- スォード -

半年ほど前にホライゾン・ヒルにやってきたハンター。並々ならぬ剣術の腕と合わせ、体術にも精通する。その確かな技量と人柄でわずか2ヶ月でベテランハンター達の信用を勝ち取り、セイバーに任命された。

以後、どこからか連れてきた飛竜『ジルジラ』を駆り、予定日時を過ぎても戻らなかったり、不慮の事故で現場を動けなくなったハンター達を救助する『ヘルパー』となった。

なお、ヘルパーはあくまでスォード自身の意思で始めたもので、その構成員も彼一人である。

他のハンター達と同様に、ホライゾン・ヒルに来る以前の事はほとんどが不明である。



- スォード -
キャノン・ボールは、いつものように狩りの準備に集まるハンターや昼間から酒盛りに興じるハンター達でごったがえしていた。
どの顔を見ても酒気はほどほどで、心地よい喧噪に満ちている。
キャノン・ボールは、ここら一帯では特に繁盛している酒場だ。
ハンター達は、狩りに赴くにあたり、こういった酒場で有志をつのるのが通例となっている。

「よぅ、エス!どうだい、暇ならちょいとつきあわねーか?」
「ローエンか。俺ぁ猫が顔を洗った日は狩りにゃ出ねーって決めてるんだ。悪ぃなぁ」

そこかしこで、本気とも冗談ともつかぬ会話が飛び交っている。
一見してアウトローの集まりなのだが、不思議と秩序が保たれているように見えた。
と、そこに乱暴に入り口の戸を蹴り開けて、一人の男が入ってくる。
使い込んだ革鎧を着込み、腰に長剣を差した姿は見るからに傭兵崩れといった風体だ。
男は、酒場の入り口に立つと周囲を睨め付け、手近な所でグラスを傾けている男の肩に乱暴に手をかけた。

「おい、ここがハンターの集まる酒場だって聞いたんだが、そうなのか?」

肩を掴まれたハンターは、気にした風でもなくそのままグラスをあおると、「あぁ?」と呻くような返事を返しただけだ。

「てめぇ・・・ちょっと立ちな」

傭兵風の男はその態度が気に障ったのか、額に青筋を立ててそのハンターの胸ぐらを掴み上げた。
だが、そのハンターはそれでも意に介さないといった風に、その手を払いのける。

「・・・お前、新人か?なら、もうちょっと口のききかたにゃ気をつけな」

胸倉を掴み上げられたハンターはそう言うともうその男には目もくれず、席で再びグラスに酒を注ぎ始めた。
その態度に傭兵風の男は一気に頭に血を上らせて、腰の長剣を引き抜く。
ほとんど興味さえ示していなかった周囲のハンター達の視線が一気にその男に集まり、賑やかだった場が一瞬にして静寂に包まれた。

「手前らクズ共は知らねぇだろうがよ、俺ぁこのあいだの獅子戦争じゃあちったぁ名の知れた傭兵団にいたのよ。椚の一団・・・聞いた事ぐらいあんだろうがよ?」

「・・・あーあ、やっちまったよこいつ」

「誰か止めてやれよ。今ならまだ間に合うんじゃねーの?」

男の予想に反して、周囲のハンター達はまるで男を哀れむような言動を取り始めた。中には胸の前で十字をきる者さえいる。

「手前ら・・・舐めるんじゃねぇぞ!」

男は乱暴にテーブルに長剣を突き立てるが、周囲のハンター達は萎縮するどころかむしろ失笑さえ漏らした。

「おい、今日は誰が当番だっけ?」
「シャムだろう?」
「馬鹿、違ぇよ。今日はスォードだろ?」

そんな声が酒場のどこからか聞こえてくると、ハンター達はどっと沸いた。

「ひゅー。ついてねぇぜ!いや、むしろついてるのか?」
「どうする?俺は10秒以内に300ルーブ」
「10秒も持つかぁ?俺は5秒に400だね」

ハンター達の言動が理解できない男は、いよいよといわんばかりに声を張り上げる。

「いい加減に・・・!」

その刹那、キャノン・ボールの入り口をくぐる男があった。
どこか人なつっこいような雰囲気を称えており、口元にはわずかに微笑が浮かんでいる。
が、その鍛え上げられた体を見れば、彼もまたハンターである事は容易にうかがい知る事が出来た。
彼は、酒場に足を踏み入れると、そのただならぬ様子に気付き思わず足を止め周囲を見回した。
長剣を振りかざす傭兵風の男に、その男を取り囲むようにしているハンター達。
彼は深くため息をつき、傭兵風の男に歩み寄っていく。

「なんだ、てめぇ」
「あなた、この街は初めてですね?私はこの街でセイバー・・・ようするに治安維持員をやっている、スォードと言う者です。この街じゃあ刃傷沙汰は御法度なんです。何があったか知りませんけど、とりあえず剣を納めてくれれば、今回だけは不問に致します。どうか剣を納めては頂けませんか?」

彼は努めて笑顔を崩さずにそう言ったのだが、傭兵風の男は意を得たりと言わんばかりに声を張り上げた。

「けっ!なんだぁ、お前?何様のつもりだ?この俺に指図しようってのかよ」
「指図じゃありませんよ。忠告です。ただ、これで聞き入れてもらえないなら次は警告になりますが」
「警告だぁ?面白いじゃねぇか。何をやろうってんだ?手品でもやってみせるってのかよ」

傭兵風の男は気の利いた洒落でも言ったつもりなのか、一人でゲタゲタと笑い出した。
その様子を周囲のハンター達はニヤニヤと笑みを浮かべながらうかがっている。

「どうしても、聞き入れてはくれませんか?」
「へっ!そうだな、お前が犬の真似でもするってんならぁ聞いてやってもいいぜぇ」

傭兵風の男がそう言った瞬間、スォードの体が跳ねた。
その右腕が傭兵風の男の脇をとらえ、左腕はそのまま頭をつかんで酒場の床にたたき付ける。待ってましたとばかりに周囲のハンター達の間から歓声が沸いた。

「ひゅー!相変わらずだな!」
「ほら、10秒も持つわけねーだろ!」

そんな周囲の歓声も気に止めず、スォードは組伏した男の耳元に囁きかける。

「いいか?お前の空っぽの頭にもわかりやすくもう一度説明してやる。・・・この街じゃあ俺たちセイバーがルールだ。黙って従えばいい。で、それが嫌なら実力行使だ。お前みたいな単細胞にゃ、こういう説明の方がわかりやすいだろう?」

そう囁く間も、スォードはねじ上げる腕の力を全く緩めない。組み伏せられた男は額から脂汗を流していた。

「て、てめぇっ・・・ふ、ふざけやがって・・・!殺してやる・・・殺してやるからな」

そう男が強がった瞬間、周囲に湿った鈍い音が響いた。スォードが男の腕をへし折ったのだ。その光景に、思わず目を逸らすハンターも居た。

「・・・っ!がっ・・・!ぎ、ぃっ・・・・・・!!?」

男も、剣士の端くれと言うべきか大声こそ上げなかったものの、その顔は苦痛に大きく歪んでいた。

「・・・なんだって?よく聞こえなかった。もう一度言ってみろよ。え、剣士さんよ?もう一度言ってみろよ」

スォードは、男が完全に戦意を喪失しているのを確認すると、腕を解いて男を店の外へと押しやった。

「全治二週間ってところだ。その間は皿洗いでもして食いつなぐんだな」



「ひゅー!さすがと言うか、なんというか。肝が冷えたぜ」
「タイレル・・・あなたもひどいですよ。わざわざ煽るような真似をして・・・。一言教えてあげればいいじゃありませんか?」

その後、キャノン・ボールでスォードはハンター達と酒を酌み交わしながら談笑していた。その様子は普段の穏和なものに戻っている。

「言ったさ。なぁ、オルドリン?」
「ああ、言った。大体ね、ああいうエンプティが俺たちが一言言ったぐらいで聞くようなたまじゃないってのは、スォードだってよく知ってるだろう?」

オルドリンと呼ばれたハンターがそう言うと、周囲のハンターの何人かは露骨にばつの悪そうな顔をした。
皆、先の男と同じようにこの街に来た直後にセイバーから『警告』を受けたハンター達だ。

「ま、否定はしませんけどね・・・。おっと、そろそろ戻らないと。それじゃ、失敬」

慣れた手つきでスォードはカウンターにコインを投げると、ハンター達に会釈して店を出ていった。


スォードが立ち去ると、声を出すのを遠慮していた若手のハンターが隣のベテランハンターに声をかけた。
「・・・あれが、セイバーのスォード?」
「ああ、そういやお前も最近来たとこだったな。あいつがスォード。セイバーだが、ヘルパーなんてのをやってる。酔狂な野郎だが、いい奴だぜ。今見たとおり、腕も確かだしな」
「へぇ・・・じゃ、あの飛竜も?」

若手のハンターは来る途中に見たセイバーの詰所の裏であくびをしていた飛竜の事を言った。
まさか町中で飛竜を見かけるとは思ってもいなかったそのハンターはジルジラを見るなり腰を抜かしたものだ。

「そうさ。あのジルジラも、どうやったかは知らねーけどスォードが手なずけて飼ってる。俺も一度世話になったな。ま、狩りに出る時は顔出しておけよ?」





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