「ね、マズルカ。そろそろ決まった?」 「セイ・・・・・・」 マズルカの首に抱きつくようしながら耳元で囁く魔導士・・・セイにマズルカは苦笑を禁じ得ない。 「まだ、しばらくは決まらないわよ。卒業したらどうするかも、決まらないし・・・」 「いいよねー、マズルカは。全然余裕なんだから。それに、決まらないんじゃなくて決めてないだけでしょ?マズルカだったら、宮廷魔導士になるのだって、普通にありえるじゃない」 マズルカは丁寧に首にからみついたセイの腕を離す。 「そういうセイはどうなの?卒検。それに、その後は?」 「うーん・・・あたしはやっぱり貴族様のお抱えのガルヴァンス(家庭教師を兼ねた専属魔法使い)ぐらいよねぇ・・・。マズルカと違って、錬金術ぐらいしかできないしさ」 「でも、今はアルケミーは重宝されると思うけど。アルケミー・ギルドに登録して、上手くいったら工房だってもらえるかもしれないじゃない?」 セイはひょいと窓枠に飛び乗って、笑いながら手を振った。 「無理無理。マズルカだって、あたしのスコアは知ってるでしょ?まぁ、上手く玉の輿にでも乗れたら、工房くらいはもてるかもしれないけどねー。あはは、アルケミストの言う事じゃないけどさ」 その時、セイの腰掛けた窓の外に、マズルカは知っている顔を見たような気がした。 否、ここは彼女の通うアカデミーだ。見知った顔はいくらでもいる。正確には”知っていた”顔を見たような気がしたのだ。 「ちょっ、セイ、ごめん!ちょっと用事!お昼食べてていいから!」 言うが早いか、ぱっと駆けだしていくマズルカ。 「え、ち、ちょっとマズルカ!どうしたのよー」 その場に、ぽかんとした顔のセイだけが取り残される。 息を切らして駆けてくるマズルカ。いつの間にか、人気のない裏庭へとやってきていた。 周囲をきょろきょろと見回す。 「変わりないようですね。マズルカ=ファントロゥ」 声のしたほうに向き直り、ぱっと顔を輝かせるマズルカ。 声がしたのは、二階の屋根の上。まるで頓着せずにそこにいた人物はマズルカの前へと飛び降りる。 「キャスト先輩っ・・・・・・!」 「お久しぶりですね。3年ぶりですか?」 キャスト、と呼ばれたのは紛れもなくラキストその人である。 「一体、今までどうしてたんですか?あの日・・・・・・突然いなくなって・・・私、何があったんだろうって、ずっと心配してたんですよ?」 「そうですか。それは申し訳ないことをしましたね」 ラキストは、思わず対象の前に姿を現してしまったことを後悔した。 3年前。ラキストはたしかにここの魔術アカデミーに在籍していた。マズルカとは、その時の先輩後輩の関係にあたる。 ラキストは、アカデミーでは努めて自分を抑えていたが、他の学生達が大きな間違いを犯しそうになった時に限り、ピンポイントでアドバイスを与え、道を修正してやったりした。 試験の類でも意図的に平均点を取るようにしていたため、ラキストに強い印象を持っている人間は少ない。 が、その中でマズルカはラキストの能力に感づいていた数少ない一人だ。 ラキストも、マズルカの能力を認め、彼女には何度か指導をしたのを覚えている。 「本当に、どうしてたんですか?私、色々手を尽くして先輩を捜したんですよ」 そのマズルカの言葉に、ふっと微笑を浮かべるラキスト。 ラキストが姿を消したとき。後には、一切の追跡が不可能なようにあらゆる痕跡を消していたため、たとえマズルカでなく宮廷魔導士を連れてきたところで、ラキストの所在を知る術などはなかっただろう。だが、自分が心配で探してくれたというその心遣いが純粋に嬉しい。 しかし、今ラキストがマズルカの前に立っている理由は、彼自身口にするのもはばかられるような事。 ラキストは改めて”覚悟”を決めると、すっと目を細めてマズルカに向き直った。 「マズルカ=ファントロゥ。改めて自己紹介しましょう。私の名はラキスト。すでに800年を生きる魔法使いです」 「・・・・・・先輩?」 「私が、再び貴方の前に姿を現したのは、他でもない。私がこれから行おうとしている実験に貴方の協力が必要になったからです」 「え・・・実験、って・・・」 「私の造ったホムンクルスの子を、貴方の胎に孕ませていただきたいのです。・・・・・・虚ろな魂と、純度の高い魂のハイブリット・・・・・・此度の実験に、どうしても必要になりまして」 「せ、んぱい・・・?」 マズルカが、唾液を飲み込み、細かく足を震えさせているのがわかる。 「私が欲しているのは”真理”。それを手に入れるために、私は生きているのですよ」 「何を・・・何を言ってるんですか・・・?」 「大霊界、約束の地、リンゴの木、アヴァロン・・・呼び方は様々ですが、我々魔導士が、魔術を行使する際に開くチャンネルの応答先。我々はそのほんの一端しか知りません。ですが、その中枢とも言うべき部分。そこには、あらゆる魂を統括する部分が存在する。・・・・・・その、アヴァロンの鍵を手にすることが、私が、私自身に与えた人生の命題なのです」 「先輩・・・!」 この時になって、マズルカははっきりとラキストに怯えの感情を見せた。 「私が、こんな事を話すのもあなたを優れた魔法使いだと見込んでのことです。どうでしょう?協力してはいただけませんか。もし、全てが解明されれば、貴方の名前も歴史に残ることになるでしょう」 マズルカは、一瞬迷ったような表情をした後、きっと強い意志を込めてラキストをにらみ据えた。 「・・・私は、忘れていませんよ!先輩が言ったこと!『魔導士とは、人々の幸福を手助けするために存在する者。他人を巻き込む事なかれ。私利私欲に走る事なかれ。そうすれば、その結果魔導士も幸福になれよう』・・・・・・忘れていません!」 「・・・古いことを。こんな言葉をご存じですか?『一人殺せば殺人だが、百人殺せば英雄だ』・・・古今、英雄と呼ばれた人物のほとんどは侵略者であり、大量虐殺を犯した罪人でもあります。ですが、彼らが英雄と呼ばれるのは勝ったからです。純粋に結果を出したが故に、英雄と呼ばれるのです。負けた者が英雄と呼ばれることは絶対にない。・・・・・・そして、それらの英雄に共通するのは皆一様に”覚悟”を持っていたこと。自分の指先一つで1000の人間が死に、また国が滅びようとも、己が利益のためにそれをなす事を厭わない覚悟・・・・・・彼らは大衆に支えられ、個としてではなく群として物事を決定しました。が、私はそれをあくまでも個のレベルで行う・・・・・・それだけのことです」 「じゃあ・・・じゃあ、あのとき言ったことは、みんな嘘だったんですか!?」 「・・・・・・そうではありません。あくまでも、絶対的多数たる魔導士達は、その言葉を実践するべきです。無論貴方もね。ですが、例外も存在する。例外が存在しえるのは、凡例があるからこそです」 「そんな・・・そんな理屈!」 「講釈はここまで。私が欲しいのはイエスかノーだけです」 「・・・・・・世の中に悪が栄えるのは、我々がノーと言う勇気を持たないからである。そんな言葉もありましたね」 「よろしい。後日、改めて貴方の身柄をいただきに参ります。後悔せぬよう、準備を整えることです」 ラキストは、そう言うとふわりとマントを翻した。次の瞬間には、そこには初めから何もなかったかのように一切の痕跡が消え失せていた。 |
− マズルカ − | |||||||||||
物理戦闘力 | 2 | ||||||||||
魔法戦闘力 | 10 | ||||||||||
直感 | 2 | ||||||||||
知名度 | 7 | ||||||||||
精神力 | 9 |
「今回は純粋に実力で彼女を屈服させる必要があります。本来ならば、彼女ごとき歯牙にもかけぬだけの絶対的な実力と経験の差がありますが、分身に関して言えば、ちょうど彼女と同程度の能力しかありません。ゆえに、能力の配分は慎重、かつ確実に。 具体的には、まずは彼女を上回るだけの魔法力。カリスマは必要ありませんが、身体能力、直感はそれぞれ同程度に、それなりの値が必要でしょう。活動時間は予測できませんが、それほど時間はかからないと思われる故、持久力はさほど必要にはならないでしょう。 |
□ 分身の能力 □ |
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能力 | 身体能力・・・分身の身体的な要素、すなわち腕力の強さ、頑健さ、俊敏さ等を示します。 魔法力・・・・・・分身の持つ魔法力の総量です。この値が高いほど使える魔法が増えます。 直感・・・・・・・・・いわゆる第六感。危機察知能力、気配感知能力等の高さを示します。 持久力・・・・・・身体能力とは異なる分身の有効活動持続時間を示します。 カリスマ・・・・・この能力が高いと自分の行動に対し自然と他人の関心を惹く事が出来ます。 |
分身の能力の総量は、数値に変換するとおよそ20程度です。能力的にはあくまで最低限のものですので、常に20の値を全て使い切り、能力に割り振ってください。 |
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*能力の下限は0・上限は20です* |