四十一日目

現在地は地下五階。何だかんだ言って随分足止めを喰らった階だけにさっさと抜けてしまいたい。
まぁ、焦る理由もないんだけどそれでもやっぱり少しでも先に進みたいじゃない?
例によって化け物とかハイウェイマンズギルドの襲撃を受けたりしたけど、自慢じゃないが私達もここに来た当初とは比べ物にならないぐらい力を付けている。
過信は禁物だけど、少なくとも私達四人が完調ならここに現れるような連中なら相手じゃない。

「鑑定する、ね・・・・ロブスターワイン、だって」

私はタンが見つけたワインを手に取ってみる。
まるで血のように赤いワインで、見てると何だか変な気分になってくる。

「ロブスターワイン、って確か・・・」

「ああ、ぺぺがそんな事を言っていたな」

リエッタと黒曜が奥歯に物が挟まったような物言いをしている。聞いたような気はするんだけど・・・なんだっけ?

「何でも魔力的な成分のあるワインだとかで、周囲の人間に・・・その、媚薬のような効果が現れるとかって話ですよね・・・」

「確かに、何とも言えん色合いだな・・・」

言われてみれば、何だか見ているだけでドキドキしてくる。以前媚薬プールにひっかかった時の感覚に近い。

「ま、まぁ、あんまり、上品な感じじゃ、ないわよね」

私は言葉をつっかえさせながらワインをリエッタに預ける。

「き、キルケー。顔が赤いですよ。・・・変な事、考えてません?」

ワインを受け取ったリエッタも私みたいに言葉をつっかえさせながらそう返してくる。

「な、何言ってんのよ。そ、そういう発想が出てくるって事、リエッタこそいやらしい事考えてるんじゃないの?」

「ち、違いますよ!な、何を言うんですか!」

「・・・全く、子供じゃあるまいし。何を遊んでおるんだ」

黒曜は平然とした顔をしているが、足下が小刻みに揺れているのを私は見逃してはいない。
とは言え、私とリエッタほど動揺が表に出ないのはさすが忍者と言ったところか。

「大丈夫・・・すぐ、おさまるよ」

いつもの事ながら、タンはあんまり感情を表面に出さないからこの中では一番普段と変わらないように見える。とは言え、こちらも耳が小刻みに揺れてるんだけど。

「タンはあんまり影響ないみたいねー・・・。何て言って、耳震えちゃってる」

私は自分の動揺を隠すために茶化しながらタンの耳をいじってみる。タンは思い切り目を見開いて全身を硬直させている。

「あはは、タンも影響がない訳じゃ、ないんだ」

妙な雰囲気にならないよう、努めて冗談めかして私は言ったつもりなんだけど、ちょっと声が震えて逆に何だか本気でやってるみたいに受け取られたかも・・・。

「き、キルケー!タンが困ってるじゃないですか。そ、そんな簡単に衝動にかられてはいけませんよ!」

「何だ、キルケー。ひょっとしてそのワインを口実にしてタンにいたずらしたいんじゃないか?」

リエッタと黒曜の言い様に思わず私は耳まで真っ赤に染まる。勿論、そんなつもりは毛頭無い。天地神明に誓って。うん。

「ひ、人を盛りのついた猫みたいに言わないでよ!軽い冗談でしょ!・・・た、タンもタンじゃない!そ、そんな真っ赤になって硬直してないでよ!」

・・・なんだかんだ言ってリエッタもタンもこういう事には疎いと見えて、ちょっとした事ですぐ騒ぎになる。こう言う時に年長者の黒曜がもうちょっと何とかしてくれると良いんだけど、大抵はリエッタの尻馬にのって私を茶化してくるもんだから収拾がつかない。
で、こういう事がある度に私が変な空気を作ってる、みたいなレッテルが貼られてる気がしてどうにも釈然としない。まぁ、否定できないところはあるけど・・・。

ともかく、こんなのはとっとと地上に戻ってぺぺに引き取って貰いたいものだ。
何だか・・・クセになっちゃいそうだし、ね。






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