三十九・四十日目

私が目を覚ました時にはすでにタンの姿はなく、すでに日は頂点付近にまで昇っていた。
思わず飲み過ぎたと頭を抱えたが、もっと単純に今までの疲れが出たのかも知れない。
まぁそんなのいい訳にはならないわけで、私は急いで着替えると酒場に向かった。

・・・とは言っても、今日はとりあえずリエッタと黒曜が帰ってくるのを待つばかりで、特にこれと言ってしなければならない事というのはない。だからと言っていつまでも寝ている訳にもいかない。第一、そんなのタンやリエッタ、黒曜に合わせる顔がないじゃない?

私は慌てて酒場に行ったが、流石に昼前とは言っても人はそう多くない。
昼ご飯を食べるにしたってわざわざこんなならず者まがいの冒険者が集まる酒場で食べよう何て酔狂な人間は少ないだろうしね。ま、よっぽど女に餓えてる奴なら知らないけど。

「あ、キルケー!」

すぐにタンの声が聞こえた。私は声のした方を見て思わず息を飲んだ。
タンの隣には当然と言わんばかりに自然な態度でリエッタと黒曜が座っていたからだ。

「おや、寝坊ですか?キルケー」

「やれやれ。戻ってきてみればキルケーは寝こけていると言うじゃないか。全く、我々はお主とタンの事を随分心配したと言うのに」

二人はそれほどの問題もなく戻ってこられたようで、あまり疲労も見えない。
私はあまりに二人が平然としているものだから思わずあっけに取られてしまったけど、すぐに肩の力がすっと抜けるのが分かった。

「ン・・・ごめんなさい」

冗談だとは分かっていても、どうにもバツが悪かった。

「黒曜、あんまりいじめちゃダメですよ。キルケーはすぐに思い詰めちゃうんですから」

「べ、別にそんなんじゃ・・・!」

「でも、二人とも無事で良かった」

皆に囲まれてタンは一人純粋に笑みを浮かべていた。
でも、多分皆気持ちは同じだったとは思う。

「そうですね。私と黒曜もタンとキルケーがとんでもない所に飛ばされたんじゃないかって、気が気でなかったですよ」

「しかし、タンとキルケーが同じ階に飛ばされてすぐに合流できたと言うのは不幸中の幸いというやつだな」

「・・・そうね。悪運が強いというかなんと言うか・・・」

私は苦笑しながら席に着き、ぺぺに軽く飲み物と食べ物を頼む。

「悪運、なぁ・・・。この間の事と言い、タンとキルケーの間にあるのはそれだけでもないように思えるな」

黒曜がいやらしい笑いを浮かべている。リエッタも目を細めてにやにやしている。

「な、何よ?」

「いや、偶然というやつがこう重なると言うのは、運命だからかもしれんな」

「赤い糸ってやつですね」

私は思わず吹き出してしまった。何を言うんだ、この二人は。

「あ、あのねぇ」

この前もこんなやりとりをしたような気がして、私はそれ以上言うのをやめた。
黒曜とリエッタもそれ以上茶化すつもりはないらしく、その後はともかく無事に再会できた事を喜び合った。

その後は何だかんだあって荷物の確認や食料その他の補充。武器防具の手入れなんかに時間がかかり結局夕方になってしまった。
なので結局出発は翌日と言う事になった。
期日も残りわずかだって言うのに随分のんびりしてるもんだ、と我ながら思うけど焦る理由もない訳で。


で、翌日。私達は改めて龍神の迷宮に出発した。
何だかんだ言いつつも7階まで到達してるんだし、そういう意味では遅々としてはいるかもしれないけど確実に進んでいるんだから、今のままでいいんだとも思える。

あ、それとパーティのリーダーをまたリエッタに戻す事にした。
今まではあんまり考えなかったけど、やっぱりタンは打たれ強い訳じゃないから、アイテムの類の事を考えるとリエッタに任せるのがベターなんじゃないかって事になったのだ。
実際行動の方針は皆で決めてるようなもんだから、リーダーなんてのは結局形ばっかりかもしれないけどね。








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