三十八目

トラブルは多いものの、何だかんだ言って毎度上手く切り抜けてきている。そういう悪運みたいなものは以前から感じていたけど、まだ尽きてはいないみたい。
私とタンはあれからならず者や化け物に遭遇する事なく地上へ戻ってくる事が出来た。
タンに無理をさせる訳にはいかなかったけど、タンはよく頑張ってくれた。
地上に出た時は丁度日が地平線の向こうに沈んでいこうとしている時で、私とタンは思わず顔を見合わせ、お互い疲れた顔でほっと安堵の笑みを浮かべた。
私は歩みを緩め、沈みゆく日を尻目にゆっくりとクルルミクへ戻ってきた。
ともかく、まずはタンの治療が第一だ。
クルルミクの治療師は腕がいい。ともかく、そこへ向かう。
と、街に戻ってきた安心感からか、タンの足がもつれる。私はとっさに手を伸ばし、タンの体を抱き起こしていた。

「だ、大丈夫・・・もう、ちゃんと、歩ける・・・から・・・」

「バカ、無理しないで。すぐに傷も治してもらえるから」

私はそのままタンに付き添って治療師の元へ向かったが、治療中は同席出来ないって事で、私は一人宿へ戻った。まだしばらくかかるって言うし、そのまま表で待っていようとも思ったけどリエッタと黒曜の事を考えたら時間は無駄に出来ない。
私は、ひょっとして私達より先に二人が戻ってきてるんじゃないか、と淡い期待を抱いて宿に戻ったけど、二人はまだ戻っていないようだ。
タンと私の荷物を置いて次は酒場へ。
理由はわからないけど、今日は街に戻ってきたパーティが多いらしく酒場は喧噪に包まれていた。
この中にリエッタと黒曜もいるんじゃないか、と思ったけどここにも二人の姿はなかった。
一応ぺぺや他の冒険者にも聞いてみたけど、やっぱり戻ってないみたい。
二人とも無事だといいんだけど・・・。

そうこうしているうちにタンが戻ってきた。包帯も取れてすっかりいいみたい。
タンは開口一番私に「ありがとう、ごめんなさい」を連呼したが、私は苦笑するだけだ。

その後、リエッタと黒曜についてどうするかタンと話し合った。
二人がまだ迷宮にいるのは間違いないとして、探しに行くか、それともここで待つか、だ。
しかし、探しに行くと言ったって二人がどこにいるのか見当もつかない。それに、行き違いになったりしたら目も当てられない。
あーだこーだと話し合った結果、とにかく何日か待ってみようと言う事になった。
まぁ、妥当なところ。
でも、正直待つのは私の性にあわない。
いつ戻ってくるともしれない相手を待つと言うのはなかなか勇気と忍耐力がいる。
私はそういう不安が露骨に顔に出ちゃうけど、きっとこんな風に『我慢する』というのも必要な事なんだろう。

私はじっとしていると悪い想像ばかり頭に浮かんでくるもんだから、ついついお酒を重ねてしまう。タンが渋い顔で何度かもうよした方がいい、なんて言ってくるのもあんまり耳に入らない。



私が次に気が付いた時はベッドの上。もうとっくに真夜中みたい。
隣ではタンが丸くなっていた。
まさか、酔っぱらった私をここまで引っ張ってきたんだろうか?なんて想像をする。
まぁ、他の人の話を統合すると私はその場で酔いつぶれる事はあんまりないらしいから、ここまでは自力で戻ってきたのかも知れないけど。

私はタンに覆い被さるようにして、もう一度眠りについた。
リエッタと黒曜が早く戻ってくるといいな、と願って。






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