三十日目

ようやく、以前さんざん行ったり来たりを繰り返した地下五階の地底湖までやってきた。
例の骸骨が姿を現すのも以前のまま。

「ふむ、そうだな・・・あんた、いい装備してるじゃないか。それなら王家の宝剣と同等の価値があるぜ。"一揃い"で俺に譲ってくれたら、通してやるよ」

と、骸骨は黒曜を指さして言った。
皆、一様に黒曜を見る。

「ふふふ・・・今こそ拙者の忍としての真価が問われると言う訳だな」

黒曜はなぜか誇らしげにそう言って装備を骸骨に手渡した。
で、骸骨が例のアイテムを投げてよこす。

「これでようやく前来たところまで戻ってきたって訳ね」

私だけじゃなく、皆どこかほっとしたような、今までの疲れが軽く取れるような気配があった。

「さ、行こう!」

タンの声に応え、私たちは割れた湖の底を渡り、ようやく五階の探索を開始する事になった。

「けどまぁ、ようやくここまで来たって言ってもあんまり今までと感じは変わらないわね」

私はそこらの壁に触り、誰に言うともなくそう呟く。

「そこら中黄金で出来てるとか、生き物の内臓みたいになってるとか想像しました?」

「そうじゃないけどさ」

リエッタの軽いジョークが場を和ませる。
と、その瞬間。足下の床が崩れ、私たちはそのままその真下の池に叩き落とされた。

「・・・っ!皆、大丈夫?」

私はそう言って皆を見回す。高さは私の身長ほどもなく、誰も怪我をした様子もない。
しかし、この池・・・なんだか生暖かくて・・・ぬるっとしてる?

「あ、あ、れ・・・?何、こ、れ・・・?」

私は背骨に直接冷水でもかけられたような感覚に、思わず自分の体を抱きすくめた。
体が、熱い。

「む、むぅ・・・!?い、いかん、皆早くここから出るんだ!」

黒曜がそう言うのが聞こえる。でも、足が震えて・・・。

「タン!キルケー!」

リエッタの声が遠い。頭がぼんやりして・・・なんだか夢の中にいるような・・・。

「きるけぇ・・・きる、けぇ・・・体、熱い、よぉ・・・」

気が付くと、タンの顔がすぐ私の側にあった。うっすらと頬を染め、上目遣いに私を見ている。
その瞬間、私は全身に震えが走った。
下腹が沸騰しそうだ。

「た・・・ん・・・」

タンの舌が私の頬を舐める。そのまま舌はゆっくりと横にスライドして、私の唇へ。
私もそれに応え、タンの舌に自分の舌を絡める。ぬめった水音が私の頭に反響する。

「た、タン!?キルケー!」

リエッタか、黒曜の声?でも、何だかよくわからない。
タンの舌が私の唇から離れ、ゆっくりと喉元を伝う。私は得体の知れない快感に身を震わせる。
やがてタンの舌は私の胸元に達し、タンは口で器用に私の服を脱がしていく。
そのままタンの舌が私の乳房にゆっくりと昇っていき、その頂点へ・・・。

「ひっ・・・いっ・・・!!くぅ、ん・・・!」

私はタンの頭を強く抱きかかえながらいきなり絶頂に達した。

「きるけぇ・・・きるけぇ・・・」

タンは犬そのもののように、夢中で私の乳房に舌を這わせる。さらに、タンの太股が私の股間に触れ、それだけで私は嬌声をあげた。

「た、ん・・・」

私もタンの秘部に指を這わせる。それだけで、タンの体が大きく弓なりにのけぞる。
何も考えられず、私とタンはお互いの体をまさぐり続けた。

「二人とも、しっかりなさい!」

いきなり、私からタンを引きはがされた。黒曜がタンを抱えている。
リエッタの顔が私の前にあった。

「り、えったぁ・・・何、とか、してよぉ・・・頭、変に、なるぅ・・・」

私はリエッタの首に腕を回し、リエッタの喉元に唇を寄せる。

「・・・っ!キルケー、すいません!」

そのリエッタの声を聞いた直後、私はゆっくりと意識を闇の中へ沈ませていった。



体が熱い。生ぬるいヤギの乳に浸かる夢を見ていた。

「・・・キルケー?気が付きましたか」

体を起こすとリエッタが見えた。すぐ側に黒曜とタンもいる。

「あ、れ・・・。リエッタ、一体、何が・・・」

私はそこまで口にした瞬間、全身に電気が走るような痺れを感じて思わず自分で自分の肩を抱きしめた。
やばい。ものすごく、体が熱くて・・・。

「先ほどの池だがな・・・媚薬の類だ。拙者とリエッタは影響を受けずにすんだが・・・」

媚薬・・・。なるほど、この体の疼きはそのせいか・・・。

「媚薬・・・ね・・・。覚えて、ないけど・・・私、何か、変な事・・・しなかった?」

私がそう聞くと黒曜とリエッタは顔を見合わせて「何も」とだけ言った。

「い、一度・・・戻ろう?このまま、じゃ・・・危険・・・」

タンは真っ赤な顔で、うつむきながらそう言った。私とは目を合わせようとせず、私もタンの顔をまとに見られない。

「うむ・・・このままだとかなりまずい。ともかく前回到達した所までは戻ってきたのだからよかろう」

黒曜がそうまとめて、私は一路地上を目指す。


「キルケー・・・大丈夫ですか?」

「ん・・・何とか、ね・・・」

私はリエッタの顔も見ず、絞り出すように言った。
歩くたび、自分の内股を生暖かいモノが伝うのがわかる。
この時、私はリエッタに応えながらも頭の中は昔の事でいっぱいになっていた。

・・・私は、五年ほど前にとある魔法使いに拉致され、魔術の実験台にされた事がある。
その実験というのが、有り体に言って激しい性行為をともなうもので、私はその時の感覚を鮮明に思い出していた。

今、もし、あんな事があったら・・・。

「・・・!黒曜、タンを頼みます!私はキルケーを!」

「承知!」

私は上手く回らない頭でリエッタの叫びを反芻し、頭を上げる。
視界にいつものならず者共の姿が見えた。

「ひっ・・・!?」

私は思わずその場にへたり込んでしまう。
あいつら・・・あいつら・・・私を・・・。

犯しに、来たんだ・・・。

「あ、あ・・・」

私は一瞬のうちに、あいつらが私を捕らえたら行うであろう行為を無数に想像する。
普段であれば唾棄すべき想像。そのはずなのに、私はその想像だけで軽く達していた。
唇が乾く。無意識に、私はその乾いた唇を舌で湿していた。


いつの間にか戦いは終わっていた。リエッタが返り血も拭わずに私の元へ駆け寄ってくる。

「キルケー、無事ですね!」

「あ、あり、がとう・・・。助かったわ・・・」

私はそう応えながらも、頭の中では「余計な事をして・・・」と思っていた・・・。







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