二十三日目 先日、無事に黒曜とも再会した私たちは改めて準備を整え、再び龍神の迷宮へ赴く。 リエッタが捕まった際、一階から三階への転移装置に使うコインや五階の地底湖を渡るためのアイテムが奪われてしまったので本当に1からのスタートだ。 ちょうどその転移装置の前を通りがかった時、申し訳なさそうにリエッタが口を開いた。 「すいません、皆さん。私が捕らえられたりしなければ・・・」 「気にしないで、リエッタ」 タンがリエッタの背中を軽く叩く。 「・・・全く、リエッタは私たちが非難するとでも思ってるのかしらね。それともそうされた方が気が楽とか?」 私はあえてそう言う。まぁ、勿論冗談めかして言うのだけど。 「キルケー・・・。すいません、確かに卑怯な物言いかもしれません。・・・けど、言わなければ私を軽蔑したでしょう?」 「かもね。まぁ、そういう意味ではお互い社交辞令みたいなものよね」 私は、そう言って笑いながらリエッタの首に軽く抱きついてみせる。リエッタはばつの悪そうな顔をするが、さっきまでの沈鬱な気配はなくなったように思えた。 「まぁ、急がば回れと拙者の生国では言うように、何事も焦っては上手くいくものも上手くいかん。リエッタ殿も気負いすぎは禁物だ」 と、黒曜が場をまとめてくれた。 正直なところ、確かに苦労して手に入れた渡航券が失われたのは痛いが、リエッタや黒曜が無事だった事を思えば安いものだ。もし、リエッタと黒曜の身に何かあれば渡航券がどうの何て考えも出来なかっただろう。 私たちはそれから地下二階を進んだ。ここ最近は転移装置を使っていたのでまともに二階を進むのは久しぶりだ。 等と思っていると、例によって化け物とハイウェイマンズギルドの連中の襲撃を受けた。 化け物は浅い階だからかさほど強力ではなかったし、ならず者もそう数は多くなかったのでなんなく退ける事が出来た。 戦いの後、私が剣の血糊を拭っていると、その私をじっとリエッタが見つめているのに気付いた。 「・・・何?何か私の顔に付いてる?」 私がそう言うとリエッタは慌ててかぶりを振った。 「あ、いえ、そう言う訳ではないんですが・・・。キルケー、いつの間にか随分と立ち回りにも落ち着きと余裕が出来ていますね。ついこの間までとはまるで別人のように思いました」 リエッタがそう言うと黒曜も会話に参加してきた。 「確かに、拙者もそう思っていた。以前はどこか剣も浮ついた感じがあったが、今は太刀筋も迷いがなく、鋭い。この短い間に随分と腕をあげたものだ」 「全く・・・褒め殺しって奴かしら?そんな事言ったって何も出ないわよ」 私は笑ってそう返す。たかだが数日でそんなに腕が上がるなら誰だってすぐに世界一の剣士になれよう。 「キルケー、強くなったよ。とても」 けれど、タンがあまりにストレートにそう言うものだから、私はちょっと反応に困った。 まぁ、確かに実戦慣れしてきたと言うのはあるかもしれない。とは言え、増長出来る程の事じゃないし、まだまだ皆には及びはしないのは厳然とした事実だ。 「・・・まぁ、せめて皆の足を引っ張らないぐらいの事は出来るようになりたいわね」 私は正直な気持ちを口にしたのだが、なぜかリエッタはちょっと表情を曇らせる。 「キルケーは、確か実戦はここに来てからが初めてなんですよね?」 「・・・そうね。アカデミーではずっと模擬刀だったし」 「・・・私は、こう見えて幼い頃から神官戦士となるべく訓練を受けていますし、それなりに実戦もこなしています。・・・それでようやくこの程度ですから。・・・正直、キルケーの才能が羨ましいです」 語尾が消え入るような台詞だった。言いたい事は分かるが、私は思わずむっとする。 「ふーん・・・。それって、ひょっとして私に追い抜かれた時の事を考えて保険かけてるの?自分はセンスがないから私に勝てなくても仕方ない、って?」 「そ、そんな事はありません!わ、私だってまだまだキルケーに追い抜かれるつもりはありません!」 「ならいいじゃない。才能なんて負けた奴がいい訳をするために作った言葉でしょ」 あいつが昔こう言っていた。要領のいい人間や、飲み込みの早い人間と言うのは確かにいる。だが、最終的に物を言うのは最後まで自分を鍛える事を怠らなかった人間だと。 結局どんな才能も、センスも、それにはかないはしないのだと。 私はそれを実感出来るほどの経験もなければ才能もない。でも、あいつが言っていたのだからそうなのだろうと信じている。 「ま、無駄話はこれぐらいにしてさっさと進みましょう。先は長いんだから」 「そうだね。先は長いよ。ゆっくり、進もう?」 そう言うタンの耳を私が何気なくくすぐってみると、タンが素っ頓狂な声を出して皆が笑った。 私は、あんまり神様とかは信じてないけど、このパーティに巡り合わせてくれた何者かに感謝したいと思った。 |