十八日目 気が滅入る。先の見えない探索行がこんなにストレスの溜まるものだとは思わなかった。 化け物とかならず者の相手をしていられる方がましだとさえ感じる。 結局この日はタンがちょっと使えそうな装備を見つけたぐらいで、それ以上の収穫は何もなし。 こんなもんで骸骨の言うお宝の条件を満たしたとはとても思えず、余計に陰鬱な気持ちになる。 まぁ、一歩か半歩かはわからないが、ともかく前進しているって事だけが救いかな・・・。 これで終わりというのもなんだから、今日はちょっと私の事について話そう。 と言っても、何から話したものか・・・。 それじゃあ、私が貴族のくせに剣術なんてかじってる理由について、少しだけ。 私はアカデミーでは魔術以外にも剣術を選考していた。 流派は形式的に言えばヴィーヴルフ流小剣術になる。ヴィーヴルフは私の国で以前王宮剣術指南役を務めていた元騎士で、昔は結構鳴らしたものらしいけど、現在は60を超えてとっくに現役を退いた老剣士。 さらに、うちのアカデミーは魔術師の号欲しさに集まってくる中、下級貴族が多い事もあって、そう言う連中は剣術なんてまるで興味がないと来ている。 その上、ヴィーヴルフの教える剣術は剣術とは名ばかりの型とか礼に凝り固まった儀礼剣術。 私は昔「あいつ」が体を鍛える事を勧めてた事もあって、剣術は結構乗り気だったんだけど、周りの・・・特に貴族の女の子なんてのはその真逆。 特に、最初の数回の講義で私が何人かの貴族の子をこっぴどくぶちのめしたものだから、それ以降は誰も私の相手をしようともしない。 そんな状態がしばらく続いて、私のイライラが爆発しそうになった頃、ちょっとした事件があった。 まぁ、よくあるつまらない暴力事件。家の格がどうとかってつまらない揉め事で、一人の貴族の男の子が3〜4人ぐらいに囲まれてたのよね。勿論全員男。 で、その現場に私がたまたま通りかかった。ちょっとイライラしてた時期だったし、人数が多いからって居丈高になってる連中が気にくわなくて割って入っちゃったのよね。 まぁ・・・自慢じゃないが私の家は国では知らない者がないってほどの「銘」がある。 当然だけど、その私と揉め事を起こそう何て奴がいようはずもなく、それでその揉め事は終わった。 と思ってたんだけど。 それからしばらくしてからの剣術の講義の時間。 その日はたまたま他のクラスとの合同講義の日で、偶然あの時の揉め事で私が追い払った連中の一人がいた。 剣術で私の相手をしてくれる人間がいない、ってのを聞いてたんだろう。にやにや笑みを浮かべて自分が相手になりましょう、ときたものだ。 ようするに、剣術の講義にかこつけて合法的な仕返しをしようって訳だ。 本来、剣術の講義は同性と行うのが決まりだけど、双方の合意があるからって事で私はそいつと組み討ちをやる事になった。 まぁ、お互い素人同然とは言え、やっぱり男と女の差は大きかった。 それでも私は負けん気だけで食らいついていたけど、結局はこっぴどくやられるハメになった。 今でもあいつの得意げな顔を思い出すと腹が立つぐらいだ。 けど、やられっぱなしで黙っていられる訳もなく。 私はその後、自分なりに特訓をしてそいつに今度はこちらから組み討ちを申し込んだ。 結果は引き分け。 それからだ。私は、剣術に関してはしょっちゅうそいつと組み討ちをするようになった。 あっちもあっちで、女である私に負ける訳にはいかないって気持ちもあったんだろう。 そんな事を続けているうち、いつの間にかそいつはアカデミーにあって私が「友達」と呼べる数少ない人間の一人になっていた。 まぁ、あまりガラはよろしくないが、少なくとも陰湿ではないし、何より私と同じく負けず嫌いなところで波長があったのかもしれない。 そいつとやる組み討ちは刃を潰した剣とは言え、お互いを「倒す」事に重点を置いた打ち合いだった。 それに、本来剣術の講師ではないのだけど、元傭兵だったって噂のある魔導物理学の講師から実戦向きの剣術を教われたのも大きかったんじゃないかな。 ヴィーヴルフが教える剣術も基本の部分は剣術が必要としている要素をしっかり押さえていたし、そういう要素が色々と絡み合ってアカデミーを卒業する頃にはヴィーブルフ流準皆伝の資格をもらえるまでになった。 まぁ、準皆伝なんて言っても、実戦でどこまで役に立つかなんて言うのは私が体を張って証明して見せた訳だ。まぁ言うまでもあるまい。 それでも私がなんとかかんとかやっていけてるのも、そう言った経緯があっての事だろう。 そう言う理由で私は貴族のくせに少々剣術が使えたりする訳だ。 余所の国はともかく、私の国では珍しいと言えるんじゃないかな。 ・・・なんて思ってたけど、ここにはそれ以上に珍しい連中がわんさといる。 世の中って奴は広いんだな、としみじみ思う。 しかし、自分で言うのもなんだけどひょっとして・・・。 『類は友を呼ぶ』ってやつなのかもしれない・・・。 |