十五日目

たかだか数日のはずなのに、もう随分長い事この三階、四階あたりを行ったり来たりしている気がする。とは言え、今度という今度はそうそうヘマをすることもあるまい。となれば、そろそろ地下五階も見えてくる頃だろう。
よくよく考えてみれば、ワイズマン討伐に参加してから王位継承の儀式までの期間を考えればまだ折り返し地点にも来ていないのだ。急がば回れ、とも言うし、まだ慌てるような時間じゃないはずだ。

しかしながら、化け物の類とトラップ。そして例によってハイウェイマンズギルドの連中と鉢合わせするばかりで、下への階段はどこにも見あたらない。正直ちょっと苛ついてる感がある。

ただ、苛ついてるのは私ばかりではなく、むしろタンの方がもっと気がかりな事があるみたいで、今日は終始そわそわしている。そう言えば昨日友達に買ってもらった服がいきなり破れたとかなんとか言っていたけど、それが気になっているんだろう。
気持ちはわかるけど、正直私はそういう「嫌な予感」みたいなものは考えるべきじゃないと思っている。根拠があるなら別だけど、根拠のない不安って奴は周りの人間にも伝播するもので、しかも漠然とした不安だから能動的に解決させる事もできない。

本当に不安ならその友達に会いに行けばいいんだ。
何かあってから後悔するのでは遅いし、杞憂なら杞憂で不安がなくなる訳だからそれでいい。
とは言え、私の考え方や、行動の理由って奴はどうにも「極端にすぎる」らしいので、タン本人には言わない事にする。

まぁ、タンに直接言わない理由はそれだけじゃない。
我ながら情けないと思うけど、多分、嫉妬しているんだろう。

タンが他人の事に気を取られているのが多分気にくわないのだ。
だから、慰めの言葉ひとつかけてやれず、例によってそういう自分に嫌気がさす。
大人げないというよりは、独占欲の強い私の性格のなせるわざ、と言うべきか。
ああやって心配してもらえる友人は幸せ者だけど、本人はその幸せになかなか気付くまい。
自分ならどうだろう、と考えてまた少しばかり憂鬱になった。

だから、そう言う自分の気持ちを隠すために私は化け物やならず者相手にいつも以上に声を張り上げて剣を振るうのだ。





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