十三日目

朝早く私たちはクルルミク城下町を出立した。
捕らわれた仲間・・・神官の人と忍者の人を救出に向かうためだ。
そのために傭兵も二人雇った。そして、今日、必ず二人を助け出して今までの借りを返す。
そう堅く心に誓って。

そうして私たちが再び龍神の迷宮に赴こうとした丁度その時、大声を上げて一人の少年が私たちの元に駆け寄ってきた。ドワーフの酒蔵亭でボーイ兼伝言役を務めている少年だ。
何事かと聞いてみると、何でも今まさに私たちが救出に向かおうとしていた二人・・・リエッタと黒曜の二人はすでに他のパーティに救出され、街に戻ってきていると言うのだ。
思わず私たちは顔を見合わせた。


街に戻ってみると、すでに神官の人も忍者の人も酒場で私たちを待っていた。
タンは二人の顔を見るなり二人の元に走り寄っていき、嬉しそうに耳をピンと立てて二人と戯れている。私も少し遅れて二人の無事と再会を喜び合った。

傭兵の二人は仕事は何もしていないから、と言って契約金の全てを辞退した。
私は契約は契約で、二人が無事だった事は幸運な偶然なのだから、頭金だけでも受け取ってくれと言ったのだけど、二人とも結局受け取る事はなかった。
逆説的になるけど、ああ言う傭兵こそ金を出して雇う価値があるんじゃないだろうか。

私たちは再会を祝して今日は酒場でぱーっとやる事に決めた。
私の出身地では、生水が飲めない事と酒が14から飲めるって事情から、多くの人間がほとんど日常的に酒を口にしている。ヤギの乳や牛の乳よりも酒の方がやすいぐらいだから、ある意味当然と言えて、そしてそれは私も例外ではない。
けど、パーティの面々・・・タンも神官の人も酒はダメだと言うし、忍者の人も職業柄酒を飲む事はほとんどないと言うからどうもばつが悪い。
まぁあまり安い酒で酔うと悪酔いするからほどほどにしておこう。明日は迷宮に向かうのだから。

しかし、こういう機会はそうそうあるもんじゃないから自然皆の口も軽くなるのだろう。パーティの面々から本人にまつわる話や、出身地の様々な話を聞く事が出来たのは純粋に楽しい事だ。
特に、タンの過去については思わず吹き出してしまった。
内容に、ではない。そうそうありえる事じゃない、特異な話なのにそれが私の過去の体験談とあまりに似通っていたためだ。
そのせいで、私は一層タンに親近感を抱いてしまった。あまり仲良くなると別れが辛くなりそうだから、そう言う事はあまり聞かないでおきたかったんだけど、聞いてしまったものは仕方ない。

私たちは夜が更けるまでたっぷりと飲み、食い、談笑し、宴もたけなわと言うところで明日に備え各々自分の部屋へと戻っていった。

私は少し飲み過ぎた事を自覚しつつ、宿の部屋に戻り、一人になったところで小さくため息をついた。
大した事じゃない。子供じみた意地。我が儘。プライド。そんな事だとはわかっていても・・・。


私は思っていた。出来る事なら、私自身の手で二人を助けたかった、と。






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