十二日目

私と獣人の子は一日かからずに街まで戻ってくる事が出来た。
けれど、私たちが地上に戻って来た時には丁度日が沈むところで、それが一日の終わりを感じさせ、より一層私の気持ちを急き立てた。

私があんまりに急ぐものだから、獣人の子・・・タンはさすがに息をきらせて肩を大きく上下させている。
こんな時に言うのもなんだけど、ここ数日で私はタンとは随分気が置けない仲になったように思う。同じ釜の飯を食った仲、と言うか、戦場で背中を預けるに足る間柄、と言うか・・・不思議な連帯感のようなものが生まれたのは確かだ。だから、これからは「獣人の子」ではなく、タンで通す事にする。

正直この時、私はタンが不平ひとつ言わないもんだから、ほとんど気を使う事をしていなかった。けど、ようやく地上に戻ってきた事で私にも少し余裕が生まれたのか、ようやくタンに気を向ける事が出来た。
何も言わなかったが、ほとんど駆け足で迷宮を抜けただけに、獣人とは言えそれほど運動が得意そうには見えないタンにはかなりの強行軍だったのだろう。

「ごめん・・・タン。大丈夫?少し休もうか?」

「平気・・・。だから、早く、戻ろう?」

私は思わず苦い顔をする。タンも責任を感じているだろうし、二人を助けたいとも思っているのは同じだろうけど、どうにも自分の我が儘につき合わせてしまっているような気がしてしまう。
今更ながら私は歩をゆるめ、クルルミク城下町へと戻ってきた。

城下町へ戻ってくると、私はすぐさま酒場に行き、傭兵を雇う事にした。
冒険者がいればそちらでも良かったが、今は金さえ出せばすぐに戦力になる傭兵の方がありがたい。

「・・・と言う訳。だから、あなた達には仲間の救出を手伝ってもらいたいの」
「ノープロブレムだ。金さえ頂けりゃそれだけの仕事はするさ。なぁ?」
「ああ・・・」

雇った傭兵は二人。ちょっと若いが(まぁ私やタンほどじゃないと思うけど)信用できそうな二人組だ。自慢じゃないが、私は「人を見る目」はそこそこあると思っている。少なくとも、この二人なら後ろから斬られるような事はあるまい。

「決まりね。すぐに出立するわ。準備は出来てる?」

私がそう言うと、二人の傭兵はお互い顔を見合わせて肩をすくめた。

「・・・おいおい、今から行くつもりかよ?」
「別に俺は構わないが・・・。しかし、アンタの連れは随分疲れているようだ。それに、アンタもな。気持ちはわかるが、今日は休んだ方がいいと思うが」

私はそう言われて、はっとタンに振り返る。
平然を装ってはいるが、誰の目から見ても体の端々から疲労が滲んで見えた。

「タンは平気。・・・でも、その人の言う通りだと思う。キルケー、とても疲れてる」

疲れている自覚は・・・ない。多分、それだけ気持ちが逸っているんだろう。

「・・・そう、ね。なら、明朝出発しましょう。お二人も、それでいいかしら?」

異論などあろうはずがない。
私たちは明朝の出発を約束して宿へと戻った。



その後、宿への道すがら、タンがぽつりとこんな言を零した。

「キルケー・・・キルケーの気持ち、よく、わかる。でも、キルケーのそう言うところ・・・キルケーの命を短くしそうで、こわい、よ・・・」


伏し目がちにそう言うタンの言葉に、私はきゅっと胸が痛くなる思いがした。






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