十一日目

遅れる事二日。ようやく地下四階まで戻ってきた。
この地下四階から五階が冒険者達の間ではひとつの壁となっているらしい。
ここで行方知れずになった冒険者も多い。

しかし・・・相変わらず嫌な雰囲気だ。前に来た時も思ったけど、三階までとはやはり根本的なところから違う気がする。ほとんど足を踏み入れた事のない階層だけに、プレッシャーを感じているのかも知れないけど、それだけでは説明出来ない雰囲気。



罠、ってやつは分からないように仕掛けられているから罠なんだし、対象の意表をつかなければ意味がないのだから、罠にかかる時って言うのは常に突然な訳。
この時もそうだった。

鋭い刃で編まれた網。それがいきなりかぶさってきたもんだから、かわす事も出来ずモロに全身で受け止めてしまった。
一瞬目の前が真っ赤に染まり、次いで真っ暗になる。
顔も、体もズタズタで、顔に手をやると、べったりと血がつくのがわかった。
傷のひとつひとつはそれほど深くないみたいだけど、何せ全身だ。傷よりも出血がひどそう。
獣人の子が駆け寄ってくるのが見える。この子も体中を切っているみたいだけど、私よりは大分マシみたいだ。
どうも、私と忍者の人がまともにやられたようで、視界の端にぐったりとした忍者の人が映る。
忍者の人は神官の人が抱き起こしている。
体を起こそうと思ったら、自分の血で思わず滑った。体の下を見ると、ちょっとヤバイぐらい血が広がっている。痛みを感じないのは感覚が麻痺しているからだろうか?
私の名前を呼ぶ獣人の子の声がやけに遠く感じる。泣いているようにも聞こえるけど、よくわからない。
なぜだかひどく眠い。ああ、気を失いそうなんだ、とわかったけどどうしようもない。

ほんとに、ごめん。皆の足ばっかりひっぱってるよね、私。

ごめん・・・ごめん・・・。



目を覚ました時、辺りを見回すと獣人の子しかいなかった。
体を起こすと鈍い痛みが体中を走る。が、想像したほどの痛みはない。
見ると、体中に丁寧に包帯が巻かれている。傷がほとんどふさがっている所を見ると、獣人の子が回復魔法を使ってくれて、それが上手く効いたようだ。

獣人の子は、私が目を覚ました事を知ると慌てて駆け寄ってくる。
私は獣人の子に礼を言って、立ち上がって体の調子を見る。
うん。全然大丈夫。このまま進んだってかまわないぐらいだ。
獣人の子は、ほっと安心したように息をついて、私が気を失っている間にあった事を話した。

私は、思わず獣人の子の胸ぐらを掴んでいた。
私が気を失っている間に、ハイウェイマンズギルドの襲撃にあい、神官の人と忍者の人が連れ去られたと言うのだ。

「な・・・んで・・・っ!」

何故、私は助かったのか?何故、まだ身動きが取れた神官の人が連れ去られたのか?

考えるまでもなかった。

「何で・・・何で私なんかを助けたのよ!何で・・・何で!」

この時、私はきっと般若のような顔をしていただろう。
何も考えられず、ただただ怒りだけがあった。
獣人の子が言う。何度も何度も「ごめんなさい」と。
そしてまた自己嫌悪。神官の人は忍者の人をかばい、この子は私をかばってくれた。そして、神官の人はならず者共に抗いきれなかったが、この子は私を守ってくれた。それなのに、私は・・・。

怒りが引くと、後悔と自責の念で押しつぶされそうになる。
私は獣人の子の頭を抱いて、何度も何度も言った。「ごめんなさい」と。


しばらくして、私が落ち着くと獣人の子と二人で対策を立てた。
二人を助けに行きたいのはやまやまだけど、正直返り討ちに合う危険性が高い。
だから、とにかく街まで戻って戦力を整えようと言う話になった。

・・・まぁ、これは獣人の子の提案だけど。私は、このまますぐに二人を助けに行きたかったんだけどね。でも、多分獣人の子の方が正しい。そう思う。


だから急ごう。二人が無事なうちに。







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