三日目

下に続く階段を見つける。
丸一日かけて地下一階を歩き回った訳だ。
正直、歩みは遅い。
このパーティで一番実力があるのが獣人の子で、自然歩みもその子にあわせたものになるからいた仕方ないと言えばその通り。
とは言え、獣人の血を引いてるからか、年の割には体力はあるみたいだけどそれにしたって限度はある。
まぁ、正直なところ焦りは禁物、急がば回れと言うじゃないですかとあいつの言葉が頭を回ってる気がするから、それでいいんじゃないかと思ってる。

それよりも、今日は噂のハイウェイマンズギルドの連中と鉢合わせになった。
10数人はいただろうか・・・。脅しも警告もナシで襲いかかってくるのは大分タチが悪い。
見た目は、まぁ誰もが想像する犯罪者そのもの。
女を捕まえて売り払う事を平然とやるような連中だ。正直な所、こういう連中は死んでいいと思う。
ひょっとしたらやむにやまれぬ理由でもあるのかもしれないが、知った事じゃない。
人間のクズを地で行くような連中だ。遠慮などいるもんか。

けど、いざ、剣を抜いてみるとかすかに右手が震える。

・・・情けない話だが、私は剣で直に人を斬った経験はない。
相手の事を、どれだけクズで死んでいい連中だと思おうとしても、いざ、実際に人を斬るとなると剣先に迷いが生じる。
訓練を受けた訳でもない、所詮は数を頼りにしたただのごろつき。
統制も何もあったものじゃないし、どだいこんな地下迷宮だと一度に襲いかかって来られる人数なんて1〜2人がいいところだ。
まともにやれば負けるような相手じゃない。
実際、ほとんど反射的に忍者と獣人の子はお互いの死角をカバーするように動いている。

まぁ、どのみち。私が迷ったところで相手が迷ってくれる訳じゃない。

最初の一撃をかわせたのは多分ただの偶然。ここで相手のナイフが当たっていればそれでアウトだったかもしれないが、物事に「もしも」はない。
とっさに相手のナイフをかわした後は、ほとんど反射的に体が動いていた。
実家から持ってきた刺突剣が一人のならず者の肩口をまともに貫いた。
肉の感触が剣を通して伝わる。
剣を引き抜き、返す刃でもう一人。
ただ、自然と相手の利き手の肩口を狙ってしまったのはやっぱりためらいがあったから?
けど、相手が変に動いたせいで、私の剣はまともに相手の右目を貫いてそのまま剣先は相手の後頭部を突き抜けた。
即死させてやれるほどの腕がない事は、自分にとっても相手にとっても不幸だったが、そもそもこちらに非などないのだから気にしない方がいいのだ。

気が付けば、私がその二人のならず者を倒している間に周りは静かになっていた。
忍者の人と、獣人の子、そしてあの傭兵の周りに累々とならず者の屍が積み重なっている。
忍者の人も獣人の子も慣れた風で、荷物なんかを確認してる。
そんな様にかすかな嫌悪感を感じるのは自分が甘いからだろう。初めて人を殺した嫌悪感を共有してくれる人がいない事への軽い疎外感。でもそんなのはただの我が儘だし、醜態を晒すはもっと嫌だったから、努めて平静を装う。

ただ、傭兵が私の顔を見て、今にも泣き出しそうな、困ったような、引きつった笑みを浮かべて来たのが、訳もなく悲しいと思った。






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