一日目 ワイズマン討伐に参加する事にしたはいいが、右も左もわからない。 さすがに空手でいきなり迷宮に行くのもどうかと思い、しばらく街を歩いていると声をかけられた。 気のよさそうな初老の男性だ。 どうも私の態度がよほどお上りさんに見えたらしく、ワイズマン討伐に参加するなら・・・と色々教えてくれた。 何でも、ワイズマン討伐に参加する冒険者は役所でワイズマン討伐登録の手続きを済ませ、「ドワーフの酒蔵亭」という酒場に集まり、同行者を募るのが一般的らしい。 確かに、ワイズマン討伐はもうかなり長く続いているらしいから、自然そういう流れも略式化されるのだろう。 で、私もその流れに沿って登録を済ませ、早速ドワーフの酒蔵亭に行ってみる事にした。 酒場はすぐに見つかった。まぁすぐに見つからないようでは冒険者を集めるのに難儀するのだから当然だが。 中は以外と広く、掃除も行き届いていた。 明るいと言うか、どこか華やかな雰囲気があるのは集まる冒険者のほとんどが女だからだろう。 酒場のマスターは店の名前の通りドワーフだ。 実はドワーフを見るのは初めてなのだが、田舎者だと思われるのも癪なので内心の動揺は努めて隠す。 マスターに登録者である旨を告げると、杓子定規に色々説明してくれた。 冒険者が来るたびにしているのだろうから慣れたものだ。 聞いた話でちょっと驚いたのが、ワイズマン討伐に参加する冒険者は飲み食いがただで出来るって話。 しかも、装備を整えるのも同様だとか。 それを聞いて、町中で妙に睨め付けるような視線を感じた理由が分かった。 一般人にとってはワイズマン討伐に集まる冒険者なんてごろつきと大差ないのかもしれない。 とりあえず、どうしたものかと思い食事をしながらぼーっとしていたら声をかけられた。 まだ若い・・・と言う言葉も適当ではないような少女だ。 自分もまぁ、冒険者としては若すぎるぐらいだと思うが、この少女はそれにさらに輪をかけている。 何より驚いたのは、その少女の耳・・・。 どう見ても獣人のそれだ。ただ、雰囲気から察するにハーフか、もっと獣人の血は薄いのかもしれない。 で、有り体に言って一緒にパーティを組まないかという誘いだった。 正直、ワインを吹きそうになった。 どう考えても自分みたいな駆け出しの冒険者未満が人の世話なんて出来る訳がない。 むしろ、歴戦の強者の後ろにくっついて、何が出来るか考えようかと思っていたぐらいだ。 が、少し話を聞けば、かなりの実力を持つ魔法使いだと言う。 神聖魔法も合わせて使いこなすと言い、この国ではそう言う魔法使いを「賢者」と称するのだとか。 正直、にわかには信じがたい。 が、嘘を言っている様子もない。初見の私を騙してどうこうしようという気配もない。 まぁ、初心者同士でパーティを組んで、おっかなびっくり進めばそうそうマズイ自体にもならないかもしれない。 慣れてきたらもう少しまともな人間とパーティを組めばいいだろう。 そう思い、結局パーティを組む事を承諾した。 その後、迷宮から帰ってきたばかりだと言う忍者も同行する事になった。 密偵、暗殺者などを東方の国で忍者と呼ぶのだそうだ。 が、どうもこれも怪しい。 周囲の人間はかなり見知った顔が多いらしく、気さくに声をかけられている。 そんな密偵がいるとも思えないが・・・。 まぁ、周囲を見渡してみれば大鎌を担いだ聖職者(?)だのやたら露出度の高い鎧の戦士だの、変わり者は相当多い。 それを考えれば、まぁこんなものなのかもしれない。 とは言え、不安は拭えない。 本当にやばくなったら逃げる事も考えて置いた方がいいかもしれない・・・。 とりあえずこれでパーティは三人。自称賢者の獣人の子がリーダーだ。 が、基本的にパーティは四人編成で組むものらしい。迷宮の広さや、効率を考えるとそれがベストなのだそうだ。 実際周囲のパーティも皆四人組だ。 だが、四人目が見つからない。 どうにも日が悪かったらしく、主立った冒険者は皆パーティを組んですでに迷宮入りしているそうだ。 なので、結局傭兵を雇う事にした。 以外とそうやって傭兵を組み込んだパーティも多いらしく、傭兵の斡旋に関してもちゃんと手続きが組み込まれていた。 で、とりあえず一人目と面通しをしたのだが・・・。 「お、オラを連れてってくれろ!オラ、稼いで国のかっちゃに薬さ買って帰らねぇといけねんだよ!」 軽く目眩がした。 どう見ても田舎の猟師がそのままやってきた、と言う風体だ。 素人とかそう言う問題でもない。 「二人目、呼んでもらえる?」 私があきれ顔でそう言うと、その傭兵(?)が私の膝にかじりついてきた。 「お、お願ぇだよ!オラ、何でもするっちゃ!オラ、何とか稼いで国に帰らんといかんっちゃ!」 ・・・その後、しばらくごたごたとやりとりがあったのだがとりあえず略す。 そう。結局、その傭兵を加えて私のパーティは成立した。 ・・・私も丸くなったもんだ、としみじみ感じる。 前途は多難だ。 |